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日本語の語彙語史と古典教育について。その他どうでもよい話。

『文選』謝霊運の詩 2020年センター試験漢文 全訳・解答・ワンポイント解説

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2020年のセンター試験、受験生のみなさま、まずは初日お疲れさまでございました。以下、私が、仕事をしている機関とは関係なく、個人的に執筆したものです。どなたかのお役に立てれば幸いです。なお急いで作成したため、今後少しずつ内容が加わったり、修正されたりしていく可能性もございます。ご了承ください。

 

問題をお持ちでない方は、東進さんなど大手予備校のサイトから入試、参照してください。以下は東進さんのサイトのリンクになります。

センター試験2020 国語問題|解答速報2020|予備校の東進

 

出典について

謝霊運による五言、全二十句からなる漢詩「田南樹園激流植援」。漢詩単独の出題は、1992年度の白居易の古詩以来である。設問で問われていることは基礎的な内容ばかりである。しっかりと漢文を勉強していた受験生であれば、得点するのは難しくはなかったであろう。謝霊運は、六朝の詩人。山水の詩の評価が高いことから、「山水詩」の祖とされる。

 

所感

 詩の情景が書かれたイラストとして適切なものを選ばせるという、今までにない傾向の問題が出題された以外は、目新しいものはなかったように思う。このような出題は、新テストへの布石ではないだろうか。漢詩単独での出題はかなり久々であったわけだが、漢文の授業では漢詩は必ず扱われる。真面目に学習をしていた受験生は、得点源にできたのではないかと思う。 

 

リード文

次に挙げるのは、六朝時代の詩人謝霊運の五言詩である。名門貴族の出身でありながら、都で志を果たせなかった彼は、疲れた心身を癒すため故郷に帰り、自分が暮らす住居を建てた。これはその住居の様子を詠んだ詩である。


本文

樵隠倶山在 由来事不同
不同非一事 痾養亦園中
園中氛雑屏 清曠遠風招
卜室倚北阜 啓扉面南江
激澗代汲井 挿槿当列墉

群木既羅戸 衆山亦対窓
靡迤趨下田 迢逓瞰高峰
寡欲不期労 即事罕人功
唯開蔣生径 永懐求羊蹤
賞心不可忘 妙善冀能同

 

【書き下し文】
樵隠倶に山に在るも 由来事は同じからず
同じからざるは一事に非ず 痾(やまひ)を養ふも亦た園中
園中氛雑(ふんざつ)を屏(しりぞ)け 清曠遠風を招く
室を卜(ぼく)して北の阜(をか)に倚り 扉を啓きて南の江に面す
澗(たにがは)を激(せきと)めて井に汲むに代へ 槿(むくげ)を挿(う)ゑて墉(かき)に列(つら)なるに当つ

群木は既に戸に羅(つらな)り 衆山亦た窓に対す
靡迤(びい)として下田に趨き 迢遞として高峰を瞰(み)る
欲を寡なくして労を期せず 事に即して人の功罕(まれ)なり
唯だ蔣生の径(みち)を開き 永く求羊の蹤(あと)を懐(おも)ふ
賞心忘るべからず 妙善冀はくは能く同(とも)にせんことを

 

現代語訳

木こりと隠者はともに山にいるが、その理由は同じではない。
その理由は一つのことではない。都で病んだ心身を癒してくれるのも庭園のある住居なのである。
そのような住まいでは俗世間でのわずらわしさを避け、清らかで広々とした空間が、遠くから吹く風を招き入れる。
家をどこに建てたよいのか占い北の丘を背にして建て、門扉を南の川に面して開く。
谷川を堰き止めて水を引いて井戸水を汲む代わりにし、槿を植えて壁で囲む塀の代わりとする。

木々がもう戸口から連なり、山々も窓から遠くに眺めることができる。
うねうねとつらなり続く道を通って下の田んぼに赴き、はるか遠くに連なる高い峰を仰ぎ見る。
欲を出さず無理をすることは望まず、自然にまかせて人の手をかけすぎない。
ただ蒋生のように友人を招くための道を作り、ずっと求仲・羊仲の故事のように友人が訪れるのを待つ。
美しい風景を愛でる心を忘れることなく、この上ない幸福を友人と共に楽しむことができることを願う。


解答

【問1】 ア⑤ イ③
【問2】②
【問3】②
【問4】①
【問5】⑤
【問6】④

 

答えのポイントをあっさりと

【問1】

いずれもよく問われる字である。アの他の選択肢も確認をしておくと、たまたま「偶(たまたま)」、「具(つぶさに)」、「既・已(すでに)」、「漫(そぞろに)」。
イについては「すくなし」と読む字は「寡なし」「鮮なし」を覚えておきたい。「がへんず」は「肯ず」である。
【問2】

「不」「無」「非」のそれぞれの否定について理解しておきたい。「亦」の字もポイントであった。この字は並列の意味である。また、漢詩は二句セットで意味を考えることを徹底したい。五言詩は原則「二字+三字」の構造で捉えるとよいというのも思い出して欲しい。
【問3】

「門の位置」「井戸」「垣根」の三点が今回のポイントであった。「扉を啓きて南の江に面す」(扉の位置)、「澗を激めて井に汲むに代へ」(水路を井戸の代わりとする)という点からイラストを検討してみればよい。垣根については「むくげの木」がその役割を果たしているのである。新傾向だが難しくはなかった。
【問4】

漢詩であるから押韻をまず気にする。そして二句セットでみることも忘れずに。対句も意識しましょう。
【問5】

まず、対句に気が付くことができたかどうか。そして、筆者は都での出世がかなわず田舎暮らしになったのである。この点を踏まえて答えを絞れたか。
【問6】

都にいた時は、風景などを共に楽しむ友人がいたのだろうが、田舎暮らしとなった今ではそれはかなわない。そこで、一緒に楽しめる友人の存在を求めていたのである。「蔣生が自宅の庭に友人である求仲や羊仲を招いた」という故事の引用がどういう意図によるものなのかも意識したい。

 

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